れんさん・20代・男性・学生
匂いと足音で、人を覚えています
名前は絶対にメモしないと覚えられない。それでも「自分は普通」と思ってきた20代の学生、れんさん。髪型や服装、匂い、足音で人を見分け、ふっと思い出した瞬間にメモを取る工夫を語ってくれました。
読む名前記憶研究所は、相貌失認(失顔症)や「人の顔・名前を覚えられない」という悩みを、当事者の経験と研究にもとづく情報で支えるサイトです。
何度会っても顔と名前が結びつかない。
廊下ですれ違っても、誰だかわからない。
髪型が変わっただけで、別人に見える。
それは「不注意」でも「失礼」でもありません。
相貌失認(そうぼうしつにん)と呼ばれる、脳の認知特性です。
もし「自分もそうかもしれない」と思ったなら、あなたは今日まで、説明できないまま謝り続けてきたかもしれません。
名前を聞けなかった。覚えていないことがバレるのが怖かった。
そのストレスには、ちゃんと名前がありました。
顔の見分けで困っている人の割合
約33人に1人(DeGutis et al. 2023)
うち、強い困りごとがある人
約108人に1人
うち、軽い困りごとがある人
約47人に1人
この約3%という割合は、成人のADHD(持続型で約2.58%)とほぼ同じ規模です。名前を聞いたことがある障害と変わらないくらい、身近なことなのです。
Source: DeGutis, J., et al. (2023). Prevalence of developmental prosopagnosia. Cortex. /成人ADHD有病率は Faraone, S. V., et al. (2021), Song, P., et al. (2021) による。
相貌失認には、いま飲めば治るという薬がありません。研究も治療法も、まだ発展の途中です。だからこそ、当事者である私たちが、生きやすくなるための手段を自分たちの手で生み出していく必要があると考えています。
私たちはプロダクトで大きな利益を出したいわけではありません。名札は必要最低限の価格で販売し、アプリには広告を載せていません。課金をお願いしている機能は、その裏で実際にAIの利用料を外部に支払っているものだけです。
同じ困りごとを持つ誰かの毎日が、少しでも軽くなるように。そういう気持ちで、ひとつずつ作っています。
毎週末20人を家に呼ぶほど人好きなのに、何度会っても名前が出てこない——そんな矛盾を抱えながら生きてきた当事者が、「ひとりじゃないよ」と伝えるためにこのサイトをつくりました。
ストーリーを読む当事者や家族からよく届く質問をまとめました。診断の代わりではありませんが、「自分だけなのかな」と感じたときの手がかりとして読める内容です。
誰でも多少は顔の記憶に苦手意識を持つことがあります。ただ、相貌失認の場合は「たまに忘れる」ではなく、何度会っても顔だけでは判断しづらい、場所が変わると急にわからなくなる、相手に失礼だと思われないよう常に緊張する、といった困りごとが続きます。努力不足ではなく、顔情報の処理がうまく働きにくい状態です。
相貌失認は、記憶力全般の低下とは異なります。会話の内容や約束、場所、出来事は覚えているのに、顔だけが本人確認の手がかりとして使いにくいことがあります。そのため、声、髪型、服装、歩き方、会う場所など、顔以外の情報を組み合わせて人を判断している人も多くいます。
現時点で直接「治す」薬や標準治療は確立されていません。ただし、診断や専門家への相談によって、自分の困りごとの理由を整理しやすくなります。周囲に説明しやすくなったり、名札、メモ、声かけ、座席表、写真管理などの補助策を取り入れやすくなったりします。
発達性相貌失認は家族内で見られることがあり、遺伝的な要因も示唆されています。子どもが「友達の顔が覚えられない」「先生を見分けにくい」と悩んでいる場合、叱るより先に、名前を呼んでもらう、席や持ち物を手がかりにする、事前に写真と名前を確認するなどの環境調整が役立つことがあります。必要に応じて専門医や発達相談の窓口に相談してください。
本人だけに努力を求めるより、まわりの環境を少し変えることが助けになります。初対面でなくても名前を名乗る、名札や座席表を使う、会議や授業では席順を固定する、写真と名前を確認できる一覧を用意する、といった工夫があります。大切なのは「覚えていない」のではなく「顔だけでは判断しにくい」ことを共有することです。